短時間でできるセッケンの合成

実験操作

  1.   φ16.5 mm試験管にエタノール1 mL,6M-NaOH 0.8 mL,ヤシ油1.0 gを入れ,スタンドに固定する。このとき,試験管の中は,ヤシ油+NaOH・エタノールの2層になっている。
  2.  三脚に金網をのせ,その上に1.をセットする。
  3.  2.に沸騰石を入れ,小さく青い炎でおだやかに加熱する。エタノールが入っているので極めておだやかに加熱をすること。
    1分ほどで沸騰するくらいの火力がよい。よく観察していると,エタノールの蒸気が試験管の壁をはい上がっていくのが見える。加熱2分ぐらいで,白濁した溶液になる。このころ洋なし様の臭いがする。その後,泡が多く発生するようになり,試験管の中が泡だらけになる。
  4.  試験管中の液体が見えなくなり泡だらけになって30 秒したら,加熱をやめる。
  5.  50 mLビーカーに飽和食塩水20 mLを取り,④の溶液を加える。セッケンが白色物質となって析出する。ビーカーの中に試験管の中身をすべて入れる。試験管の壁に残っているセッケンを少し水で溶かし,指でフタをしてよく振り,生成したセッケンにより泡立つかを確認する。
  6.  ガラス棒で軽くかきまぜて白色固形物を砕く。
  7.  ビーカーにガーゼを被せ,逆さまにして,水を捨てる。水を20 mLくらい加え,よく振り,再び水を捨てる。これを2回繰り返す。
  8.  白色固形物をガーゼに包み,軽く絞って脱水する。

実験の検討

短時間で実験を済ませるため,次の点を検討してみた。

  1.  油脂の検討
    油脂はやし油のみを用いる。牛脂とやし油を用いる方法やオリーブ油を用いる方法もあるが,2つの油脂をとるのは手間であり,オリーブ油などは,けん化の速度も遅く,またできあがったセッケンも固形になりにくい。
    やし油は,オリーブ油に比べけん化の速度が速く1),できあがったセッケンも固形になりやすい。
  2.  油脂と水酸化ナトリウムの量の検討
    合成と泡立ちだけを目的とし,泡立ちだけをするならば,油脂は1gで十分である。1 gなら,反応容器は試験管で済み,反応もコントロールしやすい。
    やし油を1 gにした場合のけん化当量の6mol/L NaOHは0.75 mLである。多少過剰でも,セッケンを水洗すれば未反応物は除去できる。6mol/L NaOHは1 mLとした。
  3.  反応の検討
    エタノールの働きは,水-油の両親和性により,油脂とNaOHaqを混合し反応を促進させるためと,解説されていることが多い。その作用が全くないわけではないが,本筋ではない。エタノールを混合して,セッケンのできる反応は,次の2段階で起こる。
    (1)ヤシ油とエタノールがエステル交換をして,エチルエステルとグリセリンになる。 (2)エチルエステルがけん化されて,セッケンとエタノールになる。

    セッケンの合成法には,油脂を直接けん化する方法もあるが,反応に時間がかかる。油脂は,低級アルコールと容易にエステル交換をして,脂肪酸エステルになる。脂肪酸エステルのけん化は,アルカリのみよりも速やかに行われる3)。ヤシ油+エタノールでエステル交換が起こると,洋なしのようなにおいがする。エタノールを添加せずにけん化をした場合は,このようなにおいはしない。
    エステル交換は可逆反応なので,エチルエステル生成を優位にするには,過剰のエタノールと反応させるか,生成物を除去するかである。反応中にエタノールが蒸発すると,エチルエステルが生成しにくくなる。エタノールの蒸発を防ぎながら,反応させた方がよい。また,生成したエチルエステルは,NaOHによりけん化され,エタノールと脂肪酸のナトリウム塩(セッケン)になる。ナトリウム塩ができる反応は可逆反応ではないので,セッケンが優位に生成する。
  4. 反応方法の検討
    液量を少量にして,加熱をおだやかに行えば,エタノールが試験管の外に出ていくことはあまりない。直火加熱では,おだやかな加熱は難しいので,金網越しに加熱をする。試験管で加熱をすると,沸騰によって液が攪拌されるので,かき混ぜる必要はない。加熱前は油脂と水層の2層になっている。反応が進行すると,セッケンが生成するので,泡立つようになり,反応後は均一な溶液になる。泡立ちが激しくなったら,セッケンが十分に生成したものと考え,加熱を終了する。反応時間は,試験管が泡でいっぱいになってから,30 秒間加熱する。確実にセッケンができる。
    未反応のNaOHやエタノールを除くため,飽和食塩水の中に反応物を入れる。セッケンが白色固形物となって析出する。布でセッケンを濾し取り,水の中に入れ,水洗し,食塩を除き,再び,布で濾し取れば,セッケンの完成。

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